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闘病記

私の愛用していたiPhoneは事故で大破してしまった。

その後、急遽家族に用意してもらった携帯電話はアンドロイドだった。

SIMだけは生きていたので、自宅にたまたまあった新品のアンドロイドにSIMを差して、入院中はずっとアンドロイドの携帯を使っていた。

最初は使い方が全くわからなくて苦労したが、リハビリ病院に転院した頃には、それなりに使いこなしていた。

それでも、アプリでいろいろ管理していたものが全て使えなくなって不便極まりなかった。それに、キャリアの電波を拾わないので、病院のWi-Fi環境だけが命だった。

家族は何度も新しいiPhoneを準備してくれる、と言ってくれていた。

ただ私自身に、iPhoneをまた始めから設定する気力が無かった。

そんなある日、思い付いたように新しいiPhoneに挑む気になった。

家族に新しいiPhoneを購入してもらい、封も空いていない新品のiPhoneを病院に届けてもらった。

病室でiPhoneとの格闘が始まった。

一般的な50代の女の人の中では、恐らく私は携帯操作は強い方だと思う。

アンドロイドは全くわからなくて苦戦したが、iPhoneなら何とかなる。

それにSIMは生きているので、アンドロイドから差し替えれば、それなりに情報が戻ってくるに違いない。

私は、恐る恐る設定を進めて行った。

最初に戻したのは、写真。

アンドロイドでは戻って来なかった写真が、全て戻った。

枚数が多いので、何分かかけてゆっくり戻ってきた。

息子たちの小学生の頃の写真まで、全て、戻ってきた。

私は、病室でこっそり泣いた。

事故で’思い出’を消されてしまっていた。

用意してもらったアンドロイドの中は’空っぽ’だった。

iPhoneに、戻ってきた。

思い出が戻ってきた。

誰も来ない間、1人でずっと泣いた。