5回目の手術のあと、一般病棟に移った。
麻酔からぼんやり目覚め出したと同時に、部屋が変わっていることに気がついた。でも、相変わらず動けないので、周りの状況まではわからない。
でも、そんな中、看護師さんが真っ先に私に渡した物。それは、
携帯電話。
ICU では携帯電話の持ち込みはできなかったから、待ってましたと言わんばかりに渡された。
「ご家族さんに電話してね」と渡された携帯電話は、見たことの無い知らない携帯電話だった。
私は携帯が普及した頃から、iPhoneユーザー。渡されたのはアンドロイド。
これ何?誰の?どうやって使うの? 使い方が全くわからない。
でも、それ以前にできなかったことがある、それは…、携帯電話が重くて持っていられない。
私が元々持っていたiPhoneよりは、確かに少し大きかったけど、でも渡されたのはどこにでもあるサイズの携帯電話だった。のに…、重たくて持っていられない。
筋力が…、携帯すら持てないほど筋力が落ちていた…。そりゃ…身体が動かないはずだった。
ただでさえ使い方がわからないのに、重たくて持っていられないから、電話1つかけられない。
看護師さんに手伝ってもらって、家族に電話した。
そこでわかったのは、私の携帯は事故で大破してしまったということ。でも、SIM はかろうじて生きていたので、私の自宅にたまたまあった新品のアンドロイドにSIM を差して、電話くらいはできるようにした、ということ。
新しく作られた電話帳には、親兄姉を含めた6人位の名前だけが入っていた。
全てが消えてしまった。思い出の写真も、LINEも、何もかも…。
I Dやパスワードなんて何1つ覚えていない、というか、思い出す余裕も気力もない。そもそも、アンドロイドの使い方がわからない。それ以前に…携帯が重くて持っていられない。
全てが消えてしまった。
そしてもう1つ。
私にとって初めての面会だったあの日。あの日を最後に、コロナ感染拡大の影響で、面会ができなくなっていた…。